サッカーU20全日本元監督・影山雅永氏インタビュー
友人の影山雅永氏と15年ぶりの再会とインタビュー
サッカー全日本アンダー20の元監督もされ、現在日本サッカー協会技術委員会の育成ディレクターの影山雅永氏にインタビューをし、茨城県社会保険労務士会の会報「2023年新年特別号」に掲載しました。会報は公開しており、リンク先でお読みできます。
影山雅永氏は磐城高校時代の親友です。2年の時同じクラスで席も近かった縁ですが、以下インタビュー記事です。2人とも酒を嗜むので写真はモノクロに加工しました。いや~、ドクターWも同席しての久々の再開は超楽しかったです。
会報イントロジュース
令和4年11月~12月、日本を熱狂させたのがサッカーワールドカップでした。ドーハの悲劇からドーハの歓喜へ、日本は弛まぬ努力を続け、見事にベスト16に輝きました。そんな中、今年のヒントにすべく日本サッカー協会技術委員会の育成ディレクターである影山雅永様にお時間を割いていただき、茨城県社会保険労務士会の菅野総務委員長との対談が実現しました。
影山雅永様は筑波大の出身でもあり、2020年まではサッカー全日本アンダー20の監督もされ、ナショナル監督にも若く抜擢されるなどサッカー指導歴がとても長いのですが、菅野総務委員長とは高校時代の同級生で、しかもかなり親しかったという縁もあり対談が実現したものです。しかも対談は、サッカー全日本がクロアチアに敗北した12月6日(月)のことでした。
お忙しい中、影山育成ディレクターにはありがとうございました。御礼を申し上げます。それでは対談をお楽しみください。
1.強いチームとは
(菅野)
影山ディレクターは指導歴がとても長く、強いチームとはどんなチームとお考えですか? 弱いチームとどこが違うのでしょう。
(影山D)
皆さんが考えられるように、強いチームには自信、責任感、勝利への強い意志、団結力、苦しいときにこそ力を出す事が出来るレジリエンシー(逆境から立ち上がる)、チームワークの良さや強さなどが挙げられます。
我々日本人の文化では、今挙げた事柄は以前から重要視され、集団としての和や協調性は日本人の強みだと感じている方が多いです。一方で、チームや集団の構成要素である個人に目を向けると、エゴ、強い個性などはネガティブな印象を持ってしまう嫌いがあります。同様に「エリート」という言葉は日本では非常に抵抗感が強いものですが、それはこの言葉の真の意味が誤解されているためであるように思います。集団としての和、協調性、自信、etc.は強いチームには欠かせない事は言うまでもありません。
我々は個の重要性を軽視して集団性の重要性を語るのではなく、個人の能力の高さにもっとフォーカスしなければならないですし、"強い個"を持っているチームは本当に強いのです。
2.好ましいチームとは
(菅野)
強い、弱いとは別に、好ましいチームというものがあるのだと推察します。好ましいチームとはどんなチームでしょうか。
(影山D)
これは難しいですね。個人の主観が入ってしまう部分であると考えます。
一般的にプロの世界、代表チームにおいては結果が求められます。結果、いわゆる勝利を手中にするためには戦略、戦術、選手起用などを駆使して勝利をたぐり寄せる事が必要となります。
しかし、一般の方々にとっては勝ったから良し、の場合もあれば、勝っても不満、負けたにせよ満足、等の感情が起こりますし、そこには様々なバイアスも掛かっている事が推察されます。今回の日本代表の結果と戦い方にも様々な意見があるでしょう。
これがトップ選手ではなく、育成段階の選手だとしたらどうでしょう?勝つためには手段を選ばない勝利至上主義は日本のスポーツ界における大きな問題です。勝利を目指しますが選手個人の成長を差し置いてチームの勝利を目指すべきではないと考えます。目先のその時々の勝利ではなく、一人の選手が自立期においていかに大きく成長するのかを第一の目的としたいのです。
信じられないかもしれませんが、欧州では14,15歳までは順位表を出さない、試合の結果を公表しない、という国々が多いのです。それだけ勝利至上主義での被害が大きかったのでしょう。
将来に向かって年齢に応じて選手として、チームとしてのチャレンジを最大限にしつつ勝利を目指す、こんなチームが好ましいと考えます。
3.どんなチームを作りたいか
(菅野)
強いチーム、好ましいチーム像を伺いましたが、影山ディレクターが今後チームを任されるとして、どのようなチーム作りをしたいものですか?
(影山D)
スポーツ、そしてサッカーというスポーツをリスペクトしたチームを作りたいですね。スポーツは本来遊戯としての本質を持っていますが、悲しいかな日本においては様々な影響によってそれが希薄です。協調性を身につけたいから、諦めない心を育てたいから、健康なりたいから、等の手段としてのスポーツが普通になってしまっています。
サッカーが好きだから、シュートを決めたいから、走るのが好きだからと言った理由でサッカーやスポーツを行って貰いたいというのが根本の考えです。
そして、サッカーという競技の魅力を存分にやっている選手にも、見ている人にも感じて貰えるチームを作りたいです。個人が輝き、チームとしての一体感がある、そして感動を与えられる様な。
プロチームや代表チームでは、これまでもやってきましたが"日本"という社会において生じてしまう国内仕様、ガラパゴス化からの脱却にチャレンジしたいですね。
4.若手を育成するにあたり腐心した点は
(菅野)
直前では日本代表アンダー20の監督をされていましたね。全国からとてつもなく上手なプレイヤーが集うものと推察しますが、その中で、若手を育成するにあたり腐心した点はありますか? また若手、Z世代にはどのような指導が効果的とお考えですか?
(影山D)
我々JFA(日本サッカー協会)では「自立した選手」を目標に掲げています。自分の意思をしっかりとピッチ上でもピッチ外でも表現できることを目指したいものです。自分で決断して実行する能力を育てたいのです。となると、言われた事をやるだけ、指示待ち人間ではいけません。
我々指導者は"やらせるサッカー"から脱却し、自ら考え、行動、解決できる「自立した選手の育成」が大事になりますね。
最近の子は・・などと我々が言ってしまいがちですが、日常的に安心して意思表示出来る環境にしてあげる事によって選手は変わってきます。
逆に「何で意見を言わないんだ!」と言っても却って話しませんよね。
5.国際的にみて育成の上手な国は
(菅野)
影山ディレクターは海外のナショナルチームの監督をされる、あるいは海外留学の経験も豊富で、かつ今も業務で海外を渡り歩かれていると伺います。そんな中、海外で育成が上手だなと感じた国はありますか。ぜひ具体例と共に、ご教示をいただけますとありがたいです。
また、日本における育成の課題などもお聞かせ願います。
(影山D)
ドイツやスペイン、イングランドなどサッカー強国は時代に応じて新しい育成の手法を編み出し、実行しています。ですから次から次へと良い選手が出てくるのでしょう。
意外な国を紹介します。北欧のアイスランドです。2016年のヨーロッパ選手権では人口200倍のイングランドを倒して話題になりました。2018年にはロシアワールドカップにヨーロッパ代表として出場しています。アイスランドは人口35万人。いわき市選抜がワールドカップに出場するようなものです。
世界中が、どんな強化をしてきたんだ?という反応でしたが、紐解いてみるとアイスランドのスポーツの在り方がその理由の大きなものである事が分かりました。
「ここではサッカーを始めた全ての子ども達はライセンスを持った指導者に指導されます。よって彼らはサッカーが大好きになってもっとやりたくなるのです。」
「平等は我々にとって最も重要です。すべてのクラブは男女両方があり、同じ量のトレーニングセッションがあります。誰もが自分が楽しめるレベルでサッカーをプレー出来るのです。」
「アイスランドの指導者は全員プロフェッショナルです。そのうち95%がパートタイムで、彼等は日中仕事があり、午後に指導します。アイスランドでは2つの仕事を持つことは非常に自然なことです。」
来年から中学校部活動の地域移行がスタートします。日本の部活動は世界に誇るべき素晴らしい活動ですが、持続可能ではなくなってきているのです。勝たせることだけでなく、子ども達、選手達にスポーツを通して豊かな人生を送ってもらいたいものです。
アイスランドの平等の考え方は勉強になりますし、スポーツが日本においてどう在りたいのか?を考えさせてくれる好例だと思います。
6.人間教育において重要な点は
(菅野)
ご存じの通り自分は野球人でしたが、その最終目的は人間形成だったように思われます。サッカーも同様に、人間作りということがとても重要なのだろうと思います。サッカーで生計を立てられる人はほんの一握りで、そもそも我々はスポーツを通じて人格完成の道のりを歩いているように感じておりますが、人間教育において重要な点はどのようにお考えでしょうか?
(影山D)
先にも述べたとおり、人間形成は非常に重要ですが、それ自体がスポーツをすることの目的となってはいけません。人間形成をするための手段としてスポーツを使うのではなく、あくまでもスポーツが楽しいから、やりたいからする、その課程で人間形成の重要性を学ぶことが出来る、となりたいものです。
「サッカーは子どもを大人にし、大人を紳士にする
日本サッカーの父と言われるデットマール・クラマーさんの言葉です。
7.日本サッカーの行方は
(菅野)
さて、今回のサッカーワールドカップは日本中を熱狂させてくれました。やはり勝利、すなわち結果の重要性を改めて感じているところです。そこで、今後、日本サッカー界はどのような道を模索し、歩まれるのか、その行方をどのようにお考えでしょうか?
(影山D)
JFAは今年7月に「Japan’s way」というナショナルフットボールフィロソフィーを発表しました。こんな日本サッカーになっていたいという、「ありたき姿」から逆算した物です。日本代表が世界で勝利する競技としてのサッカーも大事、しかしもっと大事なのはそれぞれが楽しむことが出来る環境を作ること、サッカーやスポーツを通して人生を豊かにしてくれる、そんな日本になって行きたいと考えます。
Japan’s wayはどなたでもご覧になれます。PDFとしてダウンロードすることも出来、映像も見ることが出来ます。是非多くの方々にご覧頂きたいと思っております。
(菅野)
ありがとうございます。「Japan’s way」ですね。ぜひ拝見したいと存じます。
8.我々にメッセージをお願いします
(菅野)
日本サッカーにはとても比較できませんが、我々も「真の働き方改革」を通じて、世に貢献したいと熱望しております。そこで最後に、我々社会保険労務士の一人ひとりにメッセージをお願いします。
(影山D)
一休禅師に曰く、「分け登る 麓の道は多けれど 同じ高嶺の月を見るかな」とありますが、道は違えども互いに自分自身を高め、共に努力を継続させてまいりましょう。
(菅野)
今日はサッカーワールドカップ真っ只中のご多用中、ヒントに富む話を本当にありがとうございました。陰ながら、日本サッカー協会のご発展、影山ディレクターの益々のご活躍を祈念しております。
(茨城社労士会・総務委員長・菅野哲正)
(影山雅永様のプロフィール等はネットで確認を)
1985年の磐城高校はサッカー、ラグビー、野球と同時全国大会出場で、長い歴史で全国唯一と言われている。
【番外編】
対談には、高校時代の同級生であり、影山雅永氏と近所のドクターW(医師)氏も同席しました。
対談中には同級生の気軽さもあり、以下のようなやり取りがあったので披露します。
(菅野)
雅永の話は「サッカー」を「会社」に置き換えても通じる普遍的な響きがあるね。とてもためになった。
(ドクターW)
本当にためになったよ。しかしまあ、哲正君のハチャメチャぶりは凄かったね。ダミー事件とか、ふんどし事件とか、信じられない事件をいつも起こしてたよね。特にトラ(体育教諭)からのボコボコ事件は一番の衝撃だった。
(菅野)
高校当時は磐城高校始まって以来のバカとか言われ、皆には迷惑をかけたよ。トラかあ~、懐かしいね。あれは怖かった。ほんと命の危険まで感じた。
(ドクターW)
本当に凄まじかった。今なら大ニュースでしょ。
(菅野)
その後の柔道の授業中はいつもしんどい思いをしてた。でも不思議なことに全く憎しみも何もなく、むしろ自分が悪かったんだから当然で、今でいうパワハラとか感じなかったし、男子校にあって男らしい先生だったよ。
(影山D)
でもな菅野、海外から見ると暴力は異常な世界なんだぞ。軍国国家の名残で暴力的なところもあったと思うけど、きちんと、厳しくとも丁寧にしっかりと伝えることが大切なんだよ。頭の中を変えなくちゃダメだ。日本やアジアを超えて、海外で通用する人間力を身に付ける必要があるぞ。
(菅野)
そうかー、世界を歩いてきた雅永に言われると説得力があるよ。俺たちは異常だったのかも知れないな。分かった、今から考え方を変えるよ。野球部なんて最も上意下達の世界だったからな。明日から国際的な指導力を身に付けるよ。見とけよ。
(影山D、ドクターW)
はははは、無理だろ!
(ここまでインタビュー記事)
雅永くんも年齢を重ねました
影山雅永さんの益々のご活躍を祈念しています。ドクターWを含め3人で1年に1度は会おうぜ。また雅永さんには過去にもお世話になった経緯があり、以下のリンクでご紹介します。
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