平成18年度税法改正情報

2014年8月16日

法人役員の給与課税の見直し

 平成18年度の税制改正の事前の予想では大きな改正はおそらくないだろうと言われていました。

 しかし、いざふたを開けてみると(税制改正大綱が公表されてみると)、あっと驚く内容のものや、FP実務上しっかりと理解しておかなければならないような重要なものが含まれていました。

 その中のひとつが、掲題の「法人の役員給与課税の見直し」です。

 これまでは、役員に支給される給与は「役員報酬」および「役員賞与」と呼ばれていましたが、今後は、役員報酬と役員賞与を総称して「役員給与」として同一化されることになりました。

 もちろん、役員報酬・役員賞与という呼び方が廃止されたわけではなく、役員報酬・役員賞与の区分を無くしたということです。

 これは、言うまでもなく、本年5月1日施行の新『会社法』において、役員報酬および役員賞与が職務執行の対価として「役員給与」に一本化され、臨時の役員給与(従来の役員賞与)が会計上費用処理されるようになったことに伴うものです。

 これにより、法人税法においても、役員賞与について損金算入が一部認められるようになりました。

 さらにもっと驚いたものが、実質一人会社の役員給与の給与所得控除額に相当する部分が損金算入できなくなるという措置が講じられたことです。

 高額な収入を得ている個人事業者は、節税対策として「法人成り」することで事業所得が給与所得に転化するため、給与所得控除相当部分が実質経費(損金)として扱われるため、そのメリットを享受してきたわけですが、今後はそのメリットが制限されるというものです。

 この改正もやはり新会社法において、最低資本金制度が撤廃されたことに伴い会社設立が容易になったことから、法人成りに伴う節税対策の急増を抑止するために講じられた措置です。

 そこで、今回は「損金算入される役員給与」と「実質一人会社の役員給与に係わる給与所得控除相当額の損金不算入」について、その概要を解説します。

1.損金算入される役員給与

 改正前の法人税法は、不相当に高額な役員報酬や役員賞与は損金算入は認められていませんでしたが、今年の税制改正では、次に該当する役員給与については損金算入できるようになりました。

  1. 定期同額給与
  2. 事前確定届出給与
  3. 非同族会社の利益連動給与

(1) 定期同額給与

 これは従来の役員報酬に該当するもので、支給時期が1ヵ月以下の一定の期間毎で、かつその事業年度内の各支給時期における支給額が同額である給与が該当します。

 この場合は、従来同様、損金算入が認められます。

 また、定時株主総会等で、事業年度の途中で役員報酬の改定があった場合でも、その改定時期が事業年度開始から3ヶ月以内の改定なら定期同額給与として認められます。

 また、経営状態の悪化等により役員給与を改定する場合は、減額する場合に限って、改定時期がたとえ事業年度開始から3ヶ月経過後であったとしても、定期同額給与として認められます。

(2) 事前確定届出給与

 これは従来の役員賞与に該当するもので、株主総会等の決議等により、所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与です。

 納税地の所轄税務署長宛「事前確定届出給与の届出」(支給時期や支給額等を記載)が提出されていることが要件となります。

 届出事項は、対象者、役職名、支給時期、支給金額等の所定事項を記載します。

 実際に支給された金額が届出に記載されている金額と異なる場合には、支給額全額が損金算入されなくなります。

 尚、事前確定届出給与の届出提出期限ですが、この給与に係る職務執行開始日と、その事業年度の属する会計期間の開始日から3ヶ月を経過する日とのいずれか早い日までとされています。

(3) 利益連動給与

 これは、同族会社でない内国法人がその業務執行役員に対して支給する利益連動給与のことです。

 これも従来の役員賞与に該当し、下記要件を満たせば損金算入が認められます。

  1. 利益に関する指標を基礎として算定される給与である
  2. 給与算定方法が、その事業年度開始の属する会計期間開始の日から3ヶ月以内に、株主総会の決議や報酬諮問委員会での決定による
  3. その内容が有価証券報告書に開示されている

 もともと、この業績連動型給与の損金算入は欧米では認められており、日本だけが損金不算入を続けていると海外諸国との競争には勝てないことから、従来より産業界から要望を受けていたもので、ようやく今般それが認められたということです。

2.実質一人会社の役員給与に係わる給与所得控除相当額の損金不算入

(1) 概要

 会社法の施行により最低資本金制度が撤廃され、法人設立が従来より容易になったため、節税対策による法人成りの急増を抑止するための措置であることは明らかですが、この規定が新設法人にのみ適用されるものではなく、既存法人にも適用されていることに問題があり、"悪名高きルール改正"と呼ばれる所以です。

 具体的には、同族会社の業務を主宰する役員およびその同族関係者等が発行済株式の総数の90%以上の数の株式を有し、かつ、常務に従事する役員の過半数を占める場合には、当該業務を主宰する役員に対して支給する給与のうち給与所得控除に相当する部分として計算される金額は、損金の額に算入しないと規定されています。

(a) 従来の税額

給与所得=給与収入-給与所得控除額
780万円=1,000万円-220万円
個人の所得税額=
    給与所得×所得税率-控除額=780万円×20%-33万円=123万円
法人税額=0(∵法人の課税所得=0のため)
∴納税額=123万円・・・②    ①-②=54万円

(b) 今後の税額

個人の所得税額=
    給与所得×所得税率-控除額=780万円×20%-33万円=123万円
法人税額=220万円×22%(法人税率)=48.4万円
∴納税額=171.4万円・・・③   ①-③=5.6万円

 個人事業主時代には177万円だった納税額が、法人成りにより123万円の納税額で済んだため、従来は差し引き54万円の節税が可能でした。

 ところが、この規定により節税効果はわずか56,000円に過ぎなくなることがわかります。

(2) 適用除外

 下記の場合に該当すれば、この規定は適用されないことになっています。

  1. 親族の株式保有割合<90%
  2. 常勤役員の半数以上が非同族関係者
  3. 基準所得金額(注)≦ 年800万円
  4. 年800万円 < 基準所得金額 ≦ 年3,000万円
     かつ、その基準所得金額に占める業務主宰者の給与の額の割合が50%以下

(注)基準所得金額とは、直前3年以内に開始する事業年度における所得金額と損金算入された業務主宰者の給与の額の合計額の平均額のこと