サプライムローン問題とアメリカ住宅ローン事情

2014年8月16日

 サブプライムローン問題の混乱は一応小康を保っているかのようですが、今後、世界のどこの市場に飛び火しないとも限りません。

 ちょっと気になったので、この問題の背景になっている米国の住宅ローンの事情について調べてみました。

アメリカの住宅ローンの歴史

 アメリカの住宅ローンを考える場合、1929年の大恐慌にまで遡らなければなりません。

 アメリカ経済が大恐慌から立ち直るために、テネシー川の開発などの公共事業が大規模に行われたことが有名ですが、政府は同時に中産階級向けの住宅融資に力を入れたことも忘れてはなりません。

 内需の拡大には、公共事業と住宅建設が大いに役立つことは、今も昔も変わらぬ事実です。

 特に1920年代中ごろに100万戸近くあった新規住宅着工件数が、1930年代中ごろには10分の1に減ってしまいましたから、住宅産業のテコ入れは景気回復のうえからも最重要でした。

低所得者に対する債務保証

 そこでアメリカ政府は、FHA(連邦住宅庁)を設立して、低所得者に対する債務保証を行いました。

 FHAが誕生したのは1934年ですが、政府はもうひとつファニーメイ(連邦抵当金庫)という組織を1938年に作りました。

 これは例えばアメリカ西部の住宅ローンを東部に売るといった具合に、住宅ローンを流動化する役割を担っていました。当時のアメリカで西部は住宅需要が活発で、これを豊かな東部の資金でまかなうことにしたのです。

 1930年代に登場したFHAとファニーメイは大きな効果をあげ、1940年代の初めには住宅着工件数は、ほぼ大恐慌前の水準に戻りました。

住宅ローンの証券化で融資残高が急増

 1970~80年代に入って、折からの高金利と長期の固定金利による貸付は、住宅ローンの貸し手である金融機関(主にS&L)の経営を圧迫しました。

 そこで考えられたのが、「住宅ローンの証券化」の動きです。

 つまり金融機関が抱える住宅ローンの金利リスクを市場に転嫁するわけです。

 1938年設立のファニーメイは1968年に民営化され、同時に設立されたジニーメイ(政府抵当金庫)とともに住宅ローンの証券化に乗り出すことになります。

 また、1980年代に経営破綻したS&Lに替わって、大手商業銀行が子会社としてモーゲージバンカーを設立し、ここが新たな住宅ローンの融資機関になりました。

ローンの焦げ付きが拡大しているのも大きな問題

 今回のサブプライムローン問題で経営危機が噂されるカントリーワイド社は、米国最大のモーゲージバンカーです。

 2000年代に入ってからの世界的な金利低下を受け、アメリカの住宅ローン金利も低下の一途を辿りました。同時に好景気による住宅ブームが起きました。

 ブームの中身は、もちろん実需もありますが、値上がり期待の投資目的の購入もありました。

 1995年から2005年までの10年間で住宅ローンの融資残高は約2倍(約1200兆円)になり、2005年貸付総額は349兆円と、日本の同時期の23兆円の約15倍です。

 融資残高ベースで約60%が証券化しています。

 ちなみにわが国の住宅ローンの証券化の割合は、約6%です。

 アメリカでは本来証券化市場が発達しているため、住宅ローンの利用者は長期固定金利の住宅ローンを選ぶことが出来たわけですが、住宅価格の値上がりによって、返済開始当初の返済額をできるだけ低く抑える変動金利型住宅ローンを利用する人が多くなっています。

 また固定金利型のなかにも、一定期間は金利のみを返済して、その後、元利均等返済する「インタレストオンリー(IO)型」が登場して、当初の返済額が低く抑えられているローンの利用者が増えています。

 今回の一連のサブプライムローン騒動の中で、これらの人々のローンの焦げ付きが拡大しているのも、大きな問題です。

リバースモーゲージの融資額にも変化が・・・

 米国の住宅ローン事情では、リバースモゲージの利用が近年急増しています。

 リバースモゲージについてはご存知の方も多いものと思われますが、住宅を担保に老後の資金などの融資が受けられる制度です。

 リバースモゲージの融資には以下のリスクが伴います。

  1. 住宅価格下落リスク
  2. 長生きリスク
  3. 金利上昇リスク

 融資した金融機関をこれらのリスクから守るため、低所得者向けのリバースモゲージであるHECM(Home Equity Conversion Mortgage)にはFHA(連邦住宅庁)の保険が付きます。

 またリバースモゲージの債権はファニーメイ(連邦抵当金庫)が買い取ることになっています。

 現在、HECMは全米のリバースモゲージの約90%を占めています。

 2006年の新規契約は約7万6000件、1件あたりの融資額は約1900万円です。

 最近の住宅価格の急落は、当然こうしたリバースモゲージの融資額にも変化をもたらします。

リバースモゲージに頼る割合が極めて大きい影響を懸念

 公的年金制度が不備なアメリカでは、高齢者がリバースモゲージに頼る割合が極めて大きくなっています。

 サブプライムローンの問題は、金融の問題だけでなく、アメリカの実体経済に大きな影響を与えています。

 今後のアメリカ経済の動きから目が離せません。

サブプライムローン問題はアメリカ発世界的大恐慌の引き金になるのか