平尾誠二氏の講演での学び なんとかするのがマネジメント

2020年9月20日

 平尾誠二氏の講演が茨城県土浦の陸上自衛隊かすみがうら駐屯地で行われ、急ぎ駆けつけて拝聴してきた。

 昨日の平成22年7月10日(土)だったが、ラグビーファンなら見逃せない講演だろう。

 最後のほうでお話をされた、
「マネジメントの最たるものは“なんとかする”ことである」という下りに大いに合点させられ、強い組織の条件について「強い組織は多少の矛盾や理不尽さが残っている組織である」の自説にも大きく納得させられた。

 案内をもらったのがその2~3日前であり、石岡ラグビースクールのコーチからのご案内だった。仕事が入っていたがお客さんを誘って会場に入った。
 ちょっと場所がいまいち分からず、やや遅刻して入ってしまい残念だった。

 自分は平尾氏の本も2冊読んだし、山口良治先生の本は4冊くらい読んでいる、いわゆるスクールウォーズ世代の山口先生大好き人間だ。

 以前お伺いした山口先生の講演についてもブログで紹介したことがある。

 平尾さんの講演は聞いたことが無く、心を躍らせて会場に入ったが、本当に良い話だった。

平尾誠二氏の講演での学び なんとかするのがマネジメント

すでに講演が始まっており残念

 会場について始めて知ったのだが、青年会議所(JC)の関東地区大会の一環として行われていたのでびっくりした。

 自分も青年会議所(JC)卒業だったので、なんとなく合点した。

 さて、平尾さんの講演で良かったことを備忘代わりに掲載しておこう。

 お題をはっきりと覚えていないのだが、内容は「リーダーシップ」についてのものだった。

平尾誠二氏の驚くべき経歴

 平尾さんの活躍は本当に華々しく、高校3年生の時に伏見工業で、あの全国制覇を成し遂げわけだが、その後、同志社大学ラグビー部時代には史上初のラグビー大学選手権3連覇に大きく貢献されており、極めつけは、神戸製鋼にて日本選手権での7連覇は記憶に新しい。

 なんとラグビーにおいて、11度日本一を経験されているわけだ。

 本当に凄い方で、近くで見るともの凄く格好良かった。

 なんとも格好良すぎる47才という感じだった。

 話もテンポ良く聞きやすくて、内容もとても参考になった。

 前述の通りすでに講演が始まっており、話の内容は山口先生の指導内容からだった。

 いかんせんメモも取っていないので、内容がぴたっと当てはまらないかも知れないが、平尾さんがもしご覧になる機会があった時にはご容赦願いたい。

伏見工業時代の山口先生との邂逅

 3年時に平尾さんはキャプテンをやられていたわけだが、とある試合のシーンを回想されていた。

 前半結構な差をつけて勝っていたようだが、ハーフタイムに山口先生が、

「お前ら、今の試合は日本一に近づいたのか、それとも遠ざかったのか?」

 と問われたようで、なんとも返答に苦しんでいたそうだ。

 そしたら、

「今の自分の力の10全てを出し切らないと、人間に力は蓄えられていかない。10の力を6とか7しか出さない奴はどんどんと力が小さくなるんだ。お前たちは力を出し切っていない。すべての力を出し切れ!」

 と喝を入れられたそうだ。

 なんと選手全員にビンタが飛び交ったようである。

 山口先生が熱血先生であることは良く窺い知ることができるのだが、往年を生々しく語っていただいたのは、本当に嬉しかった。

 そのビンタも、山口先生の手が常人の倍くらい厚いらしいので、痛いのを通り越して脳震盪を起こすような衝撃だったらしい。

 しかも右から左に全員にビンタを張り、さあ終わったかと思うと、なんと左から右に往復指導に至ったらしい。

 う~ん、強烈だ。

 その試合は後半70点を越す得点を上げて大勝したらしいが、相手チームはびっくりしたことだろうと回想されていた。

 なにせ勝っている相手が、試合の途中でビンタを張られて、しかも後半に鬼気迫るような勢いでさらに攻撃を仕掛けたわけだから・・

リーダーは怒られ方が重要

 そしてリーダーは怒られ方も重要だと仰られた。

 張り倒され方が堂々としていないと、周囲に示しがつかずリーダーとしては失格だということだった。

 確かに、殴られるときに逃げ腰では覚悟が伝わっていかないだろうなと合点した。

 平尾さんにとって、山口先生との出会い・邂逅はとてつもない大きな財産だったことが話から伝わってきた。

 逆の視点から考察すると、山口先生もまた、平尾さんというスーパープレーヤーが教え子にいたことは、これまた至上の幸福だったに違いない。

 一流の人間同士の切磋琢磨を思い浮かべ、なんとも胸が熱くなった。

本気の覚悟に人はついて行く

 平尾さんは山口先生の覚悟について、あのような覚悟に人はついていくものだと仰られた。

 世の中には正しいことを言えばついてくるだろうと思っている人もいるが、それは誤りで、多少危険の匂いがあっても、リーダーのその覚悟に人はついていくような気がすると述べられていたが、本当にそうだと思う。

 心の底から「覚悟」することはそんなに簡単では無いが、自分も自身の覚悟を点検しなくてはと思った。

同志社大学時代の岡先生との邂逅

 続いて同志社大学時代の岡監督の話に触れられ、このパートも面白かった。

 入学してすぐに声を掛けられ、

「君はラグビーが好きか?」「どのくらい好きなんだ?」

 と質問され、「三度の飯よりも好きです」と平尾さんは答えたらしい。

 それも凄いよな、と思う。

「好きなことは良い事だ。好きであればこそ、努力するし、努力のための時間を惜しまないし、成長する第一歩は好きなことにある。」ということだったらしい。

 その後同僚の話を交えられ、好きであることの大切さが諄々と伝わってきた。

 平尾さんは1年の初期の頃から試合に出て活躍されていたそうだが、その岡監督がまた素晴らしい奥深い監督だったことが述べられた。

 平尾さんの完璧なプレーに対して、「お前のプレーは面白く無い」とだけ評して冷たくされていたらしい。

 それでも試合に出し続けていたところが期待の現われだったのだろう。

 とある雨の日の試合に大きな気付きがやってきたそうだ。

 ベンチから試合を見ており、隣に岡監督が観戦していたということだった。

 とある選手が雨の中のプレーということもあり、ボールを滑らせてエラーし、相手にボールを奪われた挙句に失点につながったとのこと。

 そのシーンで終始無言だった岡監督が平尾さんに対し、ミスをしてしまった選手について、

「あいつ今何考えているだろうな? お前だったら何を考える?」

 と問われたらしい。

 ちょっと時間をとって考えて、

「雨の日だからもっと慎重に確実にボールを扱わなければいけなかったなぁと思っていたと思います。」

 という答えに対して、また無言の時間が続いたらしい。

 思い余って平尾さんが、

「先生、あの場面は何をどう考えればいいんですか?」

 と逆に問うたらしい。そしたら、

平尾氏の一皮向けた瞬間

「反省なんかしている暇は無い。時間は否応なしに過ぎていく。すぐに気持ちを切り替えて、猛々しく勝利に向かわないといけない。」

「ミスしたあいつのプレー・姿勢を見ていて勝てると思うか?」

 とても勝てそうな気がしなかったらしい。

 そこで大きな気付きがあったということだった。

 自分はいつも反省していた。
 気持ちをすぐに切り替えて猛々しく勝利に向かわなければ・・

 というような感じだったと思う。

 そしていつも型破りのプレーをしてはチャンスをつぶし、ピンチを拾ってくる選手を引き合いに、

「あいつのプレーは面白い。全く予想できないし、想像できない。本当に面白い。」

 ということだったらしく、そこで平尾さんの頭ではなく、感情にスイッチが入ったらしい。

「よし、俺も下手に考えずに思い切りやりたいようにやってみよう」と。

 そして次の試合のときに、ご本人の弁によると、本当に滅茶苦茶やってみたらしい。

 先輩たちには、「お前大丈夫か?」とか言われたらしいが、岡監督が「今日は良かったぞ」と珍しく褒めて下さったとのこと。

 そして、続けて諭したようだ。

「何事も計算どおりに行くことは少なく、勝利に向かって咄嗟に違った手を打たなくてはいけないが、その手は全て自分の経験値にある。自分の経験値を超えてできることは無い。」

 と言われ、そこで一皮向けた感覚に襲われたようだった。

「戦略・戦術は知性と感情のバランスの中にある」

 いわゆる本能的な野生の感覚をも研ぎ澄ませておかないと、もっとハイレベルな戦いでは残れないという岡監督の考えがあったのだろうが、それをもがき続けた平尾さんが、その真意を悟り、一皮向けていったということなのだろう。

 その後事実、同志社大学は、ほとんど負け無しの黄金時代となったわけだ。

 伝えるほうも、伝えられるほうも、互いにハイレベルな感性を持っていないとありえない話だったのだろうと思われる。凄いストーリーだ。

マネジメントの最たる本質は「なんとかする」

 さて、最後にお伝えいただいたことは、

「マネジメントの最たるものは、“なんとかすること”」ということだった。

 なんか本質をずばり衝いており、本当にそうだよな、と感じた。
 腹に落ちたという感じかもしれない。

 山口先生がピンチの時に、「平尾! なんとかせい!」という話の中から、

 なんとかしようと本気になれば、全知全能をかけて、その事態の収拾にあたるだろうということだった。

 シンプルではあるが、「なんとかする」、これはマネジメントが何たるかを見事に表現しているなぁと感激した。

 そうなのである、我々は、今を、その場を「なんとかしなくてはいけない」のである。

 言いえて妙であり、耳にずしっと残った「なんとかする」だった。

強い組織には矛盾と理不尽さがある

 あと印象的だったのが「強い組織」についての持論だった。

 強い組織には、ある種の矛盾、多少の理不尽さが残っていて、それに耐えうる組織であると。

 いわく、人間努力無しで簡単に手に入るものはすぐに失ってしまうものであり、本当に苦労して努力して手に入れたものは、なかなか去っていかないと。

 本当にそうだよなと痛感した。

 従って、強い組織には、ある種の矛盾、多少の理不尽さが残っているものだろう。

 平尾さんは恐らくあらゆる組織を自分の実体験はもとより、あのクレバーな眼力で研究された方だろうから、凄く説得力があった。

何回も会いたくなる人の条件

 最後の結びには、会って面白い人の条件をお伝えいただいた。

 会うたびにいつも違う話をする人は、絶えず前進・進化している証拠であり、毎回違った話をする人は会っていて飽きないということであり、

 かつ話しに熱を帯び、時間も忘れてしまうような熱を伝えてくる人は何回でも会いたいということだった。

 自分も平尾さんにいつか直接お会いしてご指導いただけるように、進化し続けられる人間になろうと決意した。

集客がいまいちだったのが残念

 しかしせっかくの素晴らしい講演にもかかわらず、人数が少し寂しかったのが残念だった。

 さすが青年会議所(JC)だというところか。

 JCマンが入らないなら、一般の人にしっかり告知して、会場を満員にしないといけないと思うよ。

 それが一流の講演に対する礼儀だろうに・・

 もっと平尾さんの講演なら聞きたい人が沢山いたろうに・・

 そして外で退屈そうにしていたJCマンは、せっかくの大チャンスを自ら捨ててしまっていることに気付きもしないのだろう。

 そのへんだけが残念だった。

 しかし時間が窮屈な中で慌てて向かったが、お話を伺えて本当にありがたく幸せだった。

 やはり超一流の方は、立居振る舞いから話の内容まで、とてつもなく素晴らしいと感動した講演だった。